「分身」は1996年に文庫本が出版され、2012年にはWOWOWでドラマ化もされました。
人工授精、代理出産など近代医学の危険な領域をテーマに、鞠子・双葉という酷似した女性2人を描いたサスペンス小説になっています。
この記事では
『分身』の重要部分のネタバレは避け、あらすじ・見どころを解説していきます。
あらすじ
函館市生まれの氏家鞠子は18歳。札幌の大学に通っている。最近、自分に瓜二つの女性がテレビに出演していたと聞いた。小林双葉は東京の女子大生で20歳。アマチュアバンドの歌手だが、なぜか母親からテレビ出演を禁止される。鞠子と双葉、この2人を結ぶものは何か?現代医学の危険な領域を描くサスペンス長篇。
東野圭吾 「分身」より引用
登場人物
氏家鞠子:函館生まれの18歳で、札幌の大学に通っている。幼いころに母親を火事で亡くす。
小林双葉:東京の大学に通う20歳。父親はおらず、母親と2人で暮らす。
氏家清:鞠子の父親。大学で発生工学について教鞭を執る。
伊原俊策:日本の政治家で、以前は首相を務めたこともある実力者。
見どころ
母親の死「鞠子の章」
鞠子は時々「私は母に嫌われているのではないか?」と考えることがありました。母親からの愛情は充分に受け取っていましが、ときおり違和感を感じていたのです。
ある日、鞠子は台所で涙を流している母親を目にします。しかし、その日の晩にはいつもと変わらない、母親の姿がありました。安心してくつろいでいる鞠子を、急な眠気が襲います。次の瞬間、鞠子は雪の積もる家の庭で目を覚まします。すると、先ほどまで家族で団欒していた
家から大炎が上がっていたのです…
この火事で鞠子は母親を失います。
警察はこの火事を事故として処理しましたが、父の氏家清は何かを隠しています。鞠子にはある確信がありました。
母親は”自殺”したのだと
テレビ出演の禁止「双葉の章」
双葉が所属するアマチュアバンドは、あるテレビ番組のオーディションに合格します。
しかし、母親は双葉がテレビに出演することを強く拒否します。なんとか食い下がる双葉でしたが、許しは貰えず。
昔から人前に出る事、を禁止する母親。思い悩んだ末、双葉は母親に黙ってテレビに出演することになります。
しかし、テレビ出演の後日
母親はひき逃げにあい、亡くなってしまいます
果たしてこれは偶然なのでしょうか…?
ちらつく政治家の影「双葉の章」
双葉は亡くなった母親の荷物から「伊原駿策」に関する記事の切り取りを見つけます。伊原駿策とは実力を持った政治家で以前、首相として活躍した人物です。
切り取られた記事の内容は
・伊原駿策に子供ができた
・その子供が免疫不全で亡くなった
という内容でした。
今後、自身の出生を探る、双葉・鞠子に伊原駿策の影が見え隠れしていきます。
裏で政界を操る大物政治家と、2人の関係とは…?
感想
大まかなストーリーはありがちな展開なのですが、テーマは人工授精・代理出産など近代医学。”危険な医学領域”の肉付けにより、他の作品とは一線を画す、エモーショナルな作品になっています。
とにかく、テーマがテーマだけに倫理観にビシビシ訴えかけられます。
ストーリー自体も濃ゆく、鞠子・双葉の章を交互にはさみ、テンポよく展開されてきます。
ぜひ、鞠子・双葉の出会いを見届けて下さい。