「学生街の殺人」は1987年に出版された本格推理小説。
東野圭吾さんの著書の中では、人気・知名度とも高いとは言えません。しかし、密室トリックや登場人物の緻密な心理描写など、推理小説として存分に楽しめる作品になっています。
この記事では
「学生街の殺人」の重要部分のネタバレは避けながら、見どころを解説していきます。
あらすじ
学生街のビリヤード場で働く津村光平の知人で、脱サラした松木が何者かに殺された。「俺はこの町が嫌いなんだ」と数日前に不思議なメッセージを光平に残して……。第二の殺人は密室状態で起こり、恐るべき事件は思いがけない方向に展開してゆく。奇怪な連続殺人と密室トリックの陰に潜む人間心理の真実!
東野圭吾「学生街の殺人」より引用
主な登場人物
津村光平:大学卒業後、就職せず喫茶店「青木」でアルバイトとして働く。23歳。有村広美と恋人関係にある。
松木元晴:脱サラし、「青木」で働く。3Fビリヤード場のフロア責任者。自分の事は語らないため、謎が多い28歳。
有村広美:津村光平の恋人。スナック、モルグの経営者
日野純子:有村広美と共にスナック、モルグを経営する。広美とは友人関係にある。
時田:モルグの常連客。学生街で本屋を営んでいる。
見どころ
松木の死
松木の死には、ある人物(以下Aと表記)との癒着・情報の横流しが絡んでいます。
簡潔に記載すると、松木は”以前勤めていた会社の機密情報をAに提供”していました。つまりはスパイ行為です。
松木から情報を得たAは、大いに成果を出すことができました。
そうなると、Aは、松木の存在を煩わしく思うようになります。
そこで、松木とAとの間で取り交わされた契約が記載された『念書』を取り戻そうと松木を殺します。
しかし、松木はその『念書』を第三者に渡していたのです。
サイエンス・ノンフィクション
『サイエンス・ノンフィクション』というのは時田がモルグに持参していた”科学雑誌”のことです。この雑誌に松木が関心を示します。
そして松木は雑誌を時田から譲り受け
”その中に、あるものを挟み込みます”
それが例の契約書である『念書』だったのです。
松木としては、その念書は隠し通さねばなりません。
そのため、念書が挟まれた雑誌を、自分との関係性が低い人物に持たせたのです。
今後の展開として『サイエンス・ノンフィクション』は事件の鍵を握ることになります。第二の殺人も、この科学雑誌が引き金となり引き起こされました。
結果として数名の手を渡り歩くことになった科学雑誌。その行方とは…
第二の殺人
第二の殺人は松木が殺されてから、3日後に起きました。エレベータ内で死亡している被害者(以後、被害者はBと表記)が発見されたのです。
犯人の目的は、松木の念書が挟みこまれている『サイエンス・ノンフィクション』にありました。
犯人はB宅に忍び込み、『サイエンス・ノンフィクション』を盗み出そうとしますが、そこでBと鉢合わせになり、刺殺したのです。
しかし、本来Bは『サイエンス・ノンフィクション』を持ってはいませんでした。では何故、B宅にその科学雑誌が置いてあったのか。そして、なぜ犯人はB宅を狙うに至ったのでしょうか。
そこには第三者の陰謀が隠されていました。その第三者は、B宅に合鍵を使用して侵入し『サイエンス・ノンフィクション』を置いていきました。そして、犯人がB宅に忍び込むように誘導したのです。
果たしてその第三者とは誰なのか…
有村広美の2つの謎
有村広美には大きく分けて以下、2つの謎がありました。この2つの謎は、物語の真相に大きく関わってくる部分になります。
では①.②の解説をしていきます。
①毎週火曜日の外出
②ピアノを辞めた理由
【①毎週火曜日の外出】
広美は毎週火曜日になるとモルグを休み、どこかへ出かけていきます。それは恋人である光平が訪ねても答えることはありませんでした。
しかしある日、光平は広美の鏡台の引き出しから『あじさい』とうタイトルの小冊子を発見します。
それは『あじさい学園』という身障者の学校の冊子だったのです。
そこで、光平は毎週火曜日に広美が『あじさい学園』に通っていた事を確信します。
何故、広美はそのような場所に通っていたのでしょうか…
【②ピアノをやめた理由】
以前、広美はピアニストを目指していましたが、あるコンクールで自分の演奏を前にして、突然ピアノを弾くことができなくなってしまいました。
それは、コンクール直前の”ある出来事”が原因でした。
このコンクールから広美はピアノから遠ざかってしまったようです。そしてこの”ある出来事”が【①毎週火曜日の外出】に繋がっていきます。
広美がピアノを辞めるに至った”ある出来事”とはいったい…
感想
冒頭でも記載しましたが、本書は人気・知名度とも高い作品とは言えません。しかし、人間心理と犯行動機の関係や、散りばめられた伏線回収から真相解明までの構成は”本格推理小説”として極めて高い水準なのではないかと感じます。
つまり、めっちゃ楽しめました!ってことです。
個人的には廃れた学生街の薄暗く、閉塞感のある雰囲気が心地よく感じられました。
東野圭吾さんの隠れた名作として推していきたいと思える作品です。