『11文字の殺人』は1987年に出版された長編推理小説で、2011年にはテレビドラマ化もされています。
恋人が殺される原因となった、クルーザー転覆事故。その真相に、女性ミステリー作家が挑みます。
この記事では
『11文字の殺人』の重要部分のネタバレは避けながら、あらすじに沿って見どころを解説していきます。
あらすじ
「気が小さいのさ」あたしが覚えている彼の最後の言葉だ。あたしの恋人が殺された。彼は最近、「狙われている」と怯えていた。そして彼の遺品の中から、大切な資料が盗まれた。女流推理作家のあたし、編集者の冬子とともに真相を追う。しかし、彼を接点に、次々と人が殺されて……。11文字に秘められた真実とは?サスペンス溢れる本格推理!
東野圭吾『11文字の殺人』より引用
主な登場人物
あたし:女性ミステリー作家。本書の主人公。
萩尾冬子:某出版社に勤めるキャリアウーマン。主人公の友人で担当編集者でもある。
川津雅之:主人公の恋人。フリーライターとして働く。
山森卓也:山森スポーツプラザ(スポーツセンター)の社長。
山森由美:山森卓也の娘。生まれつき目が悪く、盲学校に通う。
竹本幸裕:フリーライター。山森卓也が主催したクルージング・ツアー参加者の1人。
竹本正彦:竹本幸裕の弟。
見どころ
恋人の死
川津雅之は以前、主人公に「誰かが僕の命を狙っているらしいだ」と漏らしたことがありました。しかし、命が狙われてる理由までは語りませんでした。
そして、2人の出会いから二か月後、川津雅之は海で”遺体”として発見されたのです。
毒を飲まされ、後頭部を鈍器で殴らるという無慈悲な殺され方でした。
何故、雅之が殺されなければならなかったのか。恋人である主人公は捜査に乗り出します。
川津雅之の手帳と奪われた資料
川津雅之が殺された後に、身辺整理があり、主人公は雅之が仕事で使用していた手帳と資料を譲り受けることになります。
雅之の手帳を調べると、殺される直前に〔山森スポーツプラザ〕というスポーツセンターに出入りしていることが分かりました。
そこで主人公は冬子と共に、山森スポーツプラザを訪ねます。対応に当たったのは社長の山森卓也。
山森は川津雅之が殺されたことを知らなかった様子でした。しかし、何かを隠蔽しようとしていることを、主人公と冬子は見抜きます。
後に、川津雅之と山森卓也の関係が明らかになります。
手帳はその場で受け取りましたが、資料に関しては膨大な量があったので家族が主人公宅に郵送してくれました。
後日、主人公は資料を受け取り一旦外出します。そして帰宅し、資料が入っている段ボール箱を見みて、違和感を覚えます。
段ボールに開封された形跡があるのです
「何者かに資料が奪われた」主人公は確信します。
果たして、奪われた雅之の資料に隠され真実とは?
クルーザー転覆事故
捜査を進める中、川津雅之が山森卓也が主催した〔クルージング・ツアー〕に参加していた事が明らかになりました。
そして驚くべきことに、このクルージング・ツアーで転覆事故が起こり竹本幸裕というフリーライターが亡くなっていたのです。
11人の参加者の中で竹本幸之だけ逃げ遅れてしまったとのことでした。
そこで、主人公は竹本の弟である正彦に話を聞くことにしました。正彦は兄の死に1つの疑問を持っていました。
「兄は学生時代からスポーツ万能で、泳がせても、ちょっとした水泳部員なみだったんです。その兄だけが兄だけが波にながされたというのが、どうもあきらめきれなくて」
東野圭吾「11文字の殺人」より引用
正彦の発言を踏まえ、主人公はクルージング・ツアー参加者に話を聴取します。しかし、全員歯切れが悪く、何かに迷っているように感じられます。
それはまるで、山森卓也によって統一された意思のように感じられました。
主人公の推理
主人公が真相に迫る中、次々にクルージング・ツアー参加者が殺害されていきます。
つまり、『転覆事故に関する秘密』を守ろうとしている側の人間が殺されていると考えることができます。
主人公はこの連続殺人を受けて、山森卓也の娘、由美から重要な証言を得ます。
それは転覆事故の際、女性の「お願いですから助けて下さい」という大声を聞いたというものだった。
このことから主人公は、竹本幸裕の恋人もクルージングツアーに参加しており、
「恋人を見殺しにされた復讐として殺人に及んでいる」と推理しました。
最後の犠牲者
山森卓也は再びクルージング・ツアーを計画します。そして、驚くべきことに、転覆事故が起きた時と全く同じコース辿ろうと言うのです。
そのツアーに招待された主人公は冬子とともに、参加します。
山森卓也が何か企んでいることは明白でした。主人公の予感は的中し、このツアー中にまた1人殺害されてしまいます。
しかし、これで『クルーザー転覆事故』に関する連続殺人に幕が下りることになります。つまり、以降は殺人が起きないのです。
最期の犠牲者とは誰なのか…そして、その人物の死が意味する事とは…
あまりに悲しく、救いのない結論に主人公は到達します。
感想
なんとなく結果が予想できそうだと思い、読みましたが毎度毎度のどんでん返しを食らいました。
終盤には、人間の醜く下衆な部分が存分に滲み出ており犯人に同情の念が産まれます。どんな登場人物にも欠点があり、圧倒的正義の無い所が、妙なリアリティーを演出し、物語にのめりこめる要因になっているのかなと感じました。
ドロドロとした展開が好きな方に向けて、存分に推したい作品です。