『怪笑小説』は1995年に出版されたユーモア短編小説で「笑小説シリーズ」の第1弾。
ミステリのイメージの強い東野圭吾さんにしては珍しいと感じられるユーモア小説ですが、適度にブラックで棘のある笑いに引き込まれます。
年金暮らしの老女が芸能人の“おっかけ”にハマり、乏しい財産を使い果たしていく「おつかけバアさん」、“タヌキには超能力がある、UFOの正体は文福茶釜である”という説に命を賭ける男の「超たぬき理論」、周りの人間たちが人間以外の動物に見えてしまう中学生の悲劇「動物家族」…etc.ちょっとブラックで、怖くて、なんともおかしい人間たち!多彩な味つけの傑作短篇集。
東野圭吾『怪笑小説』より引用
この記事では
『怪笑小説』に収録されている全9話のあらすじを、ネタバレ無で解説していきます。
あらすじ解説
鬱積電車
都心から郊外に向かう私鉄の急行列車は満員といわないまでも、充分に混み合っていた。座席の取り合い、隣人の口臭、スカートの中身を巡る攻防、傲慢な妊婦、是が非でも座りたい肥満女性など…… その中には様々な鬱積が充満しており、混沌とした世界が広がっていた。
おっかけバアさん
勝田シゲ子は雀の涙ほどの年金で慎ましい生活を送っていた。しかし、『杉平健太郎特別公演』を見てから生活が一変する。当初はこれが最後だと言い聞かせていたが、やがて全国各地で行われる公演に足を運ぶようになり、ファンクラブにも加入する。杉平健太郎のおっかけとなったシゲ子の末路とは。
一徹おやじ
父には「息子をプロ野球選手に育てる」という夢があった。そのため勇馬が生まれた時には、天にも届く大声で叫んだのだ。父は勇馬が三歳の頃から本格的に指導を始めた。その甲斐あってか、勇馬は着実に実力を伸ばしていくが…… 父親を待ち受ける奇想天外な結末とは。
逆転同窓会
巣春高校では15期生担任会という教師の同窓会が開催されていた。開催されるのは今年で6回目になる。そこで同窓会に教え子である、15期生を何名か呼ぶことになった。しかし、”過去”を懐かしむはずだった教師陣は教え子たちの”現在”に気圧されていく……
超たぬき理論
空山一平は少年時代のある経験から、タヌキの研究に生涯をかけることになる。そして彼は「UFOの正体は文福茶釜(タヌキが化けた茶釜)であり、タヌキが超能力によってもたらしたものである」という説を唱えるようになった。果たして『超たぬき理論』に信憑性はあるのか。
無人島大相撲中継
俺と恋人の恵理子は豪華客船に乗っていたが、船内で火災があり救命ボートで脱出した。数時間の漂流後、辿り着いたのは無人島だった。暇をもてあます一行は、元アナウンサーである徳俵の相撲中継に熱中する。徳俵は過去の取り組みすべてを記憶しラジオのように話すことができたのだ。しかし、一行は熱中するあまり意外な行動にでる。
しかばね台分譲住宅
ある朝のことである。しかばね分譲住宅の道端に、刺殺された死体が横たわっていた。この物騒な出来事で地価が下がることを嫌がった住民たちは「黒が丘タウン」に死体を捨てることにする。しかし、翌朝には死体はしかばね分譲住宅に戻ってきていた。そこで住民たちは再び黒が丘タウンに死体を持って出向くことに……
あるジーサンに線香を
“若返りの実験”に成功したジーサンはみるみる若者へと変貌を遂げていく。戦争で味わえなかった青春を謳歌するジーサンであったが徐々に老人の体へと戻っていってしまう。若返ったジーサンの日記ととも展開される、ちょっぴり切なさをの残す1話。
動物家族
母親はスピッツ、父親はタヌキ、兄はハイエナ、姉は猫などなど……中学生の肇は周りの人間たちが動物に見えていた。肇はその”動物家族”たちから除け者扱いされ、学校でも独りぼっちだったのだ。そんなある日、肇が学校から帰ると宝物である「蝶の標本」が段ボール箱に下敷きになり壊れていた。
感想
ブラックジョーク、皮肉、哀れみ、人間の滑稽さなど多様な角度でユーモアが描かれていて「笑」とひと一括りにしてはもったいない作品だと感じます。
個人的にはUFOの話が好みで、最後の一文にやられました。