『人魚の眠る家』は2015年に出版された東野圭吾デビュー30周年記念作品。2018年には篠原涼子さん主演で映画化もされています。
溺水により脳機能を失った娘。家族による懸命な介護、最新の医療技術により、生き続ける娘は本当に”脳死”しているのか。
本書は人の生死について深く考えさせられる作品になっています。
この記事では
『人魚の眠る家』の重要部分のネタバレは避け、あらすじに沿いながら、見どころを解説しています。
あらすじ
「娘の小学校受験が終わったら離婚する」。そう約束していた播磨和昌と薫子に突然の悲報が届く。娘がプールで溺れた――。病院で彼等を待っていたのは、”おそらく脳死”という残酷な現実。一旦は受け入れた二人だったが、娘との別れの直前に翻意、医師も驚く方法で娘との生活を続けることを決意する。狂気とも言える薫子の愛に周囲は翻弄されていく。
東野圭吾『人魚の眠る家』より引用
主な登場人物
播磨薫子:和昌と結婚をし、瑞穂・生人の2人の子供をもうける。
播磨和昌:ハリマテクスの社長。薫子と結婚をし2人の子供もいるが、家族とは別居中。
播磨瑞穂:播磨家の長女。6歳の時にプールで溺れ脳機能を失う。以後、薫子など家族の介護により生活する。
播磨生人:播磨家の長男で瑞穂の弟。
星野裕也:ハリマテクスの社員。
美晴:薫子の妹。瑞穂と同い年の娘がいる。
千鶴子:薫子の母親。瑞穂の介護に協力する。
見どころ
播磨家の悲劇
悲劇が起きたその日、薫子は瑞穂の小学校受験の面接練習のため、瑞穂・生人を練馬の実家に預けていました。
実家では薫子の母親(千鶴子)や妹(美晴)が子供たち(瑞穂・生人)をプールに連れて行ってくれていました。
その面接練習の待ち時間に悲報が届きます。
『瑞穂がプールで溺れた』と…
薫子と和昌は急いで病院に駆けつけます。
そこでは薫子と和昌にとって、あまりにも過酷な現実が待っていました。
娘の脳死
駆けつけた病院で瑞穂は
”おそらく脳死”との残酷な判断を下されます。意識が戻ることも、ないだろうと…
絶望に暮れるか薫子と和昌に担当医はある意思を確認します。
「臓器提供の意思はあるか」
当たり前のように戸惑う播磨夫婦。
医師から脳死・臓器移植についての説明を受けて、一晩熟考し答えを出すことに。
帰宅し考えを巡らしている中
薫子は”公園でのエピソード”を和昌に話します。
それは、瑞穂が四つ葉のクローバーを見つけた時のことです。
「この葉っぱは誰かのために残しとくといって、そのままにしておいたの。会ったこともない誰かが幸せになれるようにって」
東野圭吾『人魚の眠る家』より引用
このエピソードが決定打となり、播磨夫婦は臓器移植という重い決断を下します。
やがて、瑞穂と別れの時がやってきます。薫子と和昌は2人で瑞穂の手を握りしめます。
その時、薫子と和昌は瑞穂の手が僅かに動いたように感じました。
医師は”一種の反射”のようなものだと、見解を述べます。
しかし、薫子が臓器移植を拒否するには充分すぎる出来事でした。
こうして瑞穂は臓器移植を回避し、治療を続けることになったのです。
驚くべき方法で
病院での治療により、体調が安定してきた瑞穂は自宅に戻り、薫子と千鶴子の介護によって生活していくこととなります。
そんな中、薫子は瑞穂に運動させることができないか、和昌に相談します。
和昌が経営するハリマテクスは脳と機械を繋ぐ研究を行っている事を薫子は知っていました。
そこで和昌はハリマテクス社員で
”ANCシステム”の研究を行っている
星野裕也を頼ります。
そこから星野は定期的に播磨家へ通い、ANCシステムを使用し瑞穂の身体を動かしていきます。
意識は戻らないものの最新科学により、円滑に運動ができるようになっていく瑞穂の姿に薫子は喜びます。
そして、瑞穂の訓練を託された星野も大いにやりがいを感じていたのでした。
薫子の苦悩
ANCシステムの導入により、身体を動かせるようになった瑞穂。薫子の介護生活は順風満帆のように思われました。
しかし、機械仕掛けで瑞穂の体が動くさまを否定的に捉える人間も現れるようになります。
また、意識の戻らない瑞穂は
”死んでいる”と話す者もいました。
溺水事故直後の重篤な状態を脱し、家に帰った。そして最新科学により身体の運動も可能になった。事故からは2年が経過し身長も伸びている。
それでも、担当医からは”おそらく脳死”という結論に変化はないだろうと告げられます。
つまり今現在でも、
脳死判定を行えば瑞穂の死は確定してしまうことになるのです。
生きながらえているのは「単に脳死判定を行っていないからだ」と和昌は語っています。
薫子は理想と現実の狭間で激しくもがき苦しみます。
周りに理解されない想い。
果たして瑞穂は死んでいるのか?私は娘の死を受け入れられないだけなのか?
正解などない道が薫子を苦しめることになります…
感想
本書は『脳死』を取り扱った重厚な作品です。「心臓が動いているのに、身長が伸びているのに瑞穂は死んでいるのか…」
自身の想いが伝わらない、理解されない薫子の苦悩・葛藤・怒りがひしひしと伝わり、命について思慮を深めました。
また、人の考えは千差万別で自分が納得すればそれでいいと、人生観についても考えを巡らせることができる作品だと感じました。