『使命と魂のリミット』は2006年に発行された医療サスペンス小説。
手術中に亡くなった主人公、氷室夕紀の父親。大病院へ届いた脅迫状。2つの出来事が時を超えて真実を伝えます。
この記事では
『使命と魂のリミット』の重要部分のネタバレは避け、あらすじに沿いながら、見どころを解説しています。
あらすじ
「医療ミスを公表しなければ病院を破壊する」突然の脅迫状に揺れる帝都大学病院。「隠された医療ミスなどない」と断言する心臓血管外科の権威・西園教授。しかし研修医・氷室夕紀は、その言葉を鵜呑みにできなかった。西園が執刀した手術で帰らぬ人となった彼女の父は、意図的に死に至らしめられたのではという疑念を抱いていたからだ……。あの日、手術室で何があったのか?今日、何が起こるのか?大病院を前代未聞の危機が襲う。
東野圭吾『使命と魂のリミット』より引用
主な登場人物
氷室夕紀:研修医。現在は帝都大学病院の心臓血管外科で研修を行っている。本書の主人公。
氷室健介:夕紀の父親。夕紀が中学生の頃に西園陽平が執刀した胸部大動脈瘤の手術中に亡くなる。
氷室百合恵:健介の元妻で夕紀の母親。健介が亡くなった後に西園陽平と婚約する。
西園陽平:帝都大学病院に勤務する医師で心臓血管外科の権威。氷室百合恵と婚約する。
直井譲治:真瀬望の恋人。島原総一郎に恨みを持つ。
真瀬望:直井譲治の恋人。帝都大学病院に勤務する看護師
島原総一郎:アリマ自動車の社長。大動脈瘤で帝都大学病院に入院している。
七尾行成:警視庁の刑事。氷室健介と共に働いた過去を持つ
見どころ
父親の死
氷室夕紀が中学生の頃、父親の健介は亡くなりました。胸部大動脈瘤の手術中に命を落としたのです。
その手術の執刀医こそ、西園陽平だったのです。西園は現在、夕紀が研修を行っている帝都大学病院・心臓血管外科の権威と称えられている人物。
そこで夕紀はある疑問を抱きました。
「なぜ、そこまでの名医が父の手術を失敗してしまったのか…」「父親は殺されたのではないか」と。
実際、健介の手術の前後でそう思うに至った出来事があったのです。
西園陽平の疑惑
夕紀が西園陽平を疑う要因は以下2点です。
①西園と母親、百合恵の交際
②亡くなった西園の息子
では①,②を詳しく見ていきましょう。
①西園と母親、百合恵の交際
父の健介が亡くなったのちに、西園陽平と夕紀の母、百合恵は交際します。
果たしてこれが偶然だと言えるのか… 当然ながら疑念を抱く夕紀ですが、手術前に西園と百合恵が2人で会っていた事を思い出します。
そことについて百合恵は”手術についての話し合い”だと言ってはいましたが…
これらのことから、夕紀は西園と百合恵に対して、疑いの目を向けることになります。
②亡くなった西園の息子
西園には2人の息子がいましたが、1人は中学生の時に亡くなっています。万引きを犯し、追われているパトカーからバイクで逃走している時に、事故にあったのです。
そのパトカーに乗っていた警察官が、父である氷室健介でした。
この事件で健介に非はありませんが、西園が一方的に恨みを覚えるのも容易に想像がつきます。もし、執刀医があの事件で亡くなった少年の父親だと、健介が知らなかった場合…
上記2点から、夕紀が西園に抱く疑念は確信に変わりつつありました。
届いた脅迫状
夕紀が研修を行っている帝都大学病院に脅迫状が届きます。
内容は「医療ミスを公表しなければ病院を破壊する」というものでした。
これに対して、病院側は毅然とした態度で対応しますが犯人の狙いは一向に見えてきません。
ここで警視庁の七尾は”ターゲットは病院自体ではなく、入院中のある人物なのではないか”と推察します。
果たして狙われた人物とは…
VIPの入院
帝都大学病院に大動脈瘤の手術のため、島原総一郎が入院してきました。
島原は『アリマ自動車』という大手自動車メーカーの社長です。
犯人の狙いは島原かもしれないと、警視庁の七尾は考えます。
調べによると、アリマ自動車の車は過去にシステム障害による交通事故を起こしていたことがわかりました。
しかし、事故に対してアリマ自動車はしっかりと謝罪・賠償を行っており、現在は解決している件がほとんどでした。
七尾の推理は杞憂だったのでしょうか?
感想
犯人が巨大な組織に復讐をするという点が同著者の「天空の蜂」に似ているように思います。
作中は心臓部の手術シーンや医療現場の描写が多く、東野圭吾さんの守備範囲の広さに驚くばかり。専門的な知識が作品のリアリティをより高めいると感じます。
主人公の疑念から始まる物語ですが… 父親の死の真相を知る終盤に大きな感動が待っています。