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東野圭吾『卒業』あらすじ・見どころ解説 ※ネタバレ無し 加賀恭一郎シリーズ第1弾

『卒業』は1986年に出版された推理小説で、加賀恭一郎シリーズの記念すべき第1弾。

刑事になる前の加賀恭一郎、初登場作。
1人の女子大生が密室で死んだという不可解な事件を残された友人・仲間たちが追います。

この記事では
『卒業』の重要部分のネタバレは避け、あらすじに沿い、見どころを解説していきます。

卒業を控えた大学四年の秋、一人の女子大生が死んだ。親友・相原沙都子は仲間とともに残された日記帳から真相を探っていく。鍵のかかった下宿先での死は自殺か他殺か。彼女が抱えていた誰にも打ち明けられない秘密とは何だったのか。そして、第二の事件が起こる。

東野圭吾『卒業』より引用

主な登場人物

加賀恭一郎:国立T大の4回生。剣道に定評があり、学生選手権を2連覇するほどの実力者。教員か警察官か、将来の道に悩む。

相原沙都子:国立T大の4回生。東京の出版社に内定が決まっている。波香、祥子、花江とは親しい間柄。

牧原祥子:国立T大の4回生で旅行会社に内定が決まっている。女性専用アパートの『白鷺荘』に下宿する。自室で手首を切り死亡しているのが発見される。

藤堂正彦:国立T大の4回生。成績優秀で将来を嘱望されている。牧原祥子の恋人。

金井波香:国立T大の4回生。牧原祥子と同様に『白鷺荘』に下宿する。幼少期から剣道に取り組み、青春を捧げてきた。剣道学生選手権、県予選決勝で三島亮子に惜敗する。

若生勇:国立T大の4回生で『サントウ電気』に内定が決まっている。仲間たちのムードメーカー。伊沢花江の恋人でテニスでペアを組む。

伊沢華江:国立T大の4回生。少女漫画の世界から飛び出してきたかのように明るく、感情を前面に押し出す性格。若生勇の恋人でテニスでペアを組む。

三島亮子:剣道学生選手権、県予選の決勝で金井波香を下し、全国大会に出場する。父親は三島グループという財閥で重役を務める。

南沢雅子:加賀、相原、藤堂、金井、和光、伊沢の高校時代の恩師で彼らに茶道を教える。現在は教員は引退しているが上記7人とは交流を持ち続けている。

見どころ

敗北の謎

剣道学生選手権、県予選決勝は
金井波香vs三島亮子というカード。

この二人は互いに優勝候補の双璧をなしていますが、波香のほうが実力は勝っていました。

しかし、結果は三島亮子の勝ち。波香は惜敗してしまいます。

剣道関係者の中には「八百長だ」と言うものがいるほど実力差があった二人。それなのに何故、波香は負けてしまったのか…

この頃から波香の様子に変化が現れだしました。竹刀を全く持とうとせず、どこか、ぼんやりと過ごすことが多くなったのです。

波香の兄の証言によると

「ああいう試合の後実家に帰ってきた時なんか、あいつは僕にヤツ当たりしたりするんですがね、今回は全然そんなことがなかったんですよ。といって落ち込んでいるのでもない。じっと何か思いつめているって感じで……」

東野圭吾『卒業』より引用

この敗北の後、波香は国立T剣道部の名簿を探したり、決勝を観戦した生徒に事情聴取をしたりと不穏な動きを見せ始めます。

そして仲間たちから遠ざかるように姿を見せなくなりました。果たして波香は何を調べ、何を知っていたのか?

波香が捉えた”事実”が後の事件を解き明かす鍵となります。

仲間の死

女性専用アパートの『白鷺荘』の自室で
牧原祥子は遺体となって発見されます。
死因は剃刀にて手首を切ったことによる出血多量でした。

事件発生当初は自殺が有力視されていました。しかし、祥子が死んだとされる夜に彼女の部屋を訪問した3人の証言に(電気・施錠の有無)食い違いがあることから他殺説が浮上してきました。

〈証言の食い違い〉
・部屋の電気
(1人目✖ 2人目〇 3人目〇)
・施錠の有無
(1人目✖ 2人目〇 3人目〇)

訪問者3人の証言をもとに、状況を整理してみます。

1人目の訪問者の時には祥子の部屋は施錠されておらず、電気は消えていた。しかし、2人目、3人目の訪問者の時には施錠されており、扉の隙間から蛍光灯が差し込んでおり、部屋の電気は付いたと考えていいでしょう。

1人目の訪問者は祥子の名前を何度か呼んだものの、反応が全くなかったと話しています。
このことから、1人目の訪問者が来たときに、すでに祥子は死んでいたと考えることができます。

3人の証言を合わせると、祥子は死んだ後に部屋の電気をつけ施錠をしたことになります。

しかし、それは不可能な話。

つまり、祥子が死んだ後に部屋の電気を切り、施錠をした人物がいるということが考えられます。

祥子の死を知り、深く悲しみに暮れる国立T大の仲間たち。これだけ親しい仲であっても、祥子が死ぬことになる理由が分からないもどかしさに苦しみます。

みな誰にも言えない秘密を抱えているのだろうかと。それは恋人であっても言えないことなのか、それとも恋人だからこそ言えないことなのか… 

雪月花之式での悲劇

『雪月花之式』とは茶道で行われる茶事のことです。

内容をかなり簡略化し説明すると、順番にクジを引き、菓子を食べる者・茶をたてる者・茶を飲む者を決めるというもの。

国立T大の7人の仲間は恩師である南沢雅子の誕生日に、この茶事を行うことを恒例行事にしていました。

今年は祥子が亡くなったことにより、開催が危ぶまれましたが、6人+南沢雅子で行うことになります。

しかし、そこでまたしても事件が起きます。

『雪月花之式』にて
波香が倒れ、死んだのです。

波香はクジ引きにより”茶を飲む者”に決まり、沙都子がたてた茶を飲んだ直後に絶命しました。

死因は服毒によるものでした。

この波香の死は自殺説が有力視されます。というのも、『雪月花之式』はクジ引きシステムのため特定の人物に毒をの飲ませるという行為は困難だからです。

そして、波香が祥子を殺したとする場合、罪滅ぼしとして自殺を選択した可能性も考えられるためです。

残された仲間たちは状況から考えて波香の自殺を信じて疑いません。

しかし、一人だけ波香の自殺に疑問を呈する物がいました。それが加賀恭一郎です。

「俺が沙都子をここに呼び出したのは、一緒に真実を探そうと思ったからだ。沙都子だけは信じることができる。そしてもうひとつ、俺が自信をもって言えることがある。それは、断じてあいつは自ら死を選ぶようなやつじゃないということだ」

東野圭吾『卒業』より引用

このように沙都子に語る加賀は仲間を疑うという辛く、険しい道を選びます。

感想

本書は加賀恭一郎ファンや本格推理が好きな方にオススメの一書です。

雪月花之式、密室トリックなど本格推理小説としてたしかな見応えがありました。そして卒業を控えた仲間たちの真の意味での『卒業』は大いに切なさを残します。

結局のところ、いくら親しい友人や恋人たちでも誰にも言えない秘密があり、知らないことの方が多いという当たり前を再認識しました。

人のことを分かった気になることがなんと哀れなことか、自戒を込めて感想とします。

ABOUT ME
テイケチ
◇25歳/男 ◇医療職/田舎で一人暮らし ◇小説紹介してます