読書

東野圭吾『手紙』あらすじ・見どころ解説 ※ネタバレ無し 犯罪者家族を描いた、心打たれる名作

『手紙』は2003年に出版され、129回の直木賞候補に選ばれた作品。

2006年に映画化、2018年にはテレビドラマ化もされました。

兄である剛志が犯した罪により、犯罪者の家族というレッテルを貼られ、苦しみ続ける直貴。やっとの思いで平穏を手に入れ、守るべき物ができた彼が下した苦渋の決断とは… 

この記事では
『手紙』の重要部分のネタバレは避け、あらすじに沿いながら、見どころを解説しています。

あらすじ

強盗殺人の罪で服役中の兄、剛志。弟・直貴のもとには、獄中から月に一度、手紙が届く……。しかし、進学、恋愛、就職と、直貴が幸せをつかもうとするたびに、「強盗殺人犯の弟」という運命が立ちはだかる。人の絆とは何か。いつか罪は償えるのだろうか。犯罪加害者の家族を真正面から描き、感動を呼んだ不朽の名作。

東野圭吾『手紙』より引用

主な登場人物

武島直貴:高校3年生の時に兄の剛志が強盗殺人で捕まる。それ以降、「強盗殺人犯の弟」というレッテルを貼られ生きていく。

武島剛志:弟の直貴を大学に進学させようと強盗に入った際に、緒方敏江を殺害してしまう。

緒方敏江:剛志により殺害される。資産家で独り暮らしの老婦人。

白石由美子:直貴が職場で出会った関西弁の女性。直貴に積極的にアプローチする。馴れ馴れしく、お節介な一面を持つ。

寺尾祐輔:直貴をバンドに誘い、ともに活動する。

中条朝美:直貴の交際相手。裕福な家系の娘。

平野:直貴の就職先、「新星電気」の社長。

見どころ

兄、剛志の強盗殺人

武島直貴は兄の剛志と2人暮らしをしていました。武島家は両親が他界しており、直貴にとって剛志は唯一の肉親です。

両親亡きあとの武島家は貧困に苦しみつつも、剛志が懸命に働き直貴を養っていました。

しかし、どうしても直貴が大学に通えるだけのお金を捻出することができません。直貴に大学に通って欲しい剛志は苦肉の策を考えます。

それが『強盗』だったのです。

お世辞にも頭がいいとは言えず、腰痛持ちであった剛志には強盗しか考えられなかったのです。

そして、剛志は「緒方敏江」という資産家の老婦人の家に強盗に入ります。そこで、誤って緒方婦人を刺殺してしまいます。

剛志には懲役15年が求刑されました。

こうして直貴は唯一の肉親を失い、1人で生きて行くことになります。「強盗殺人犯の弟」というレッテルを貼られながら…

バンド活動

直貴は高校卒業後、リサイクル会社で働きながら、大学の通信課程に入学します。そこで「寺尾祐輔」と出会います。

2人の仲はしだいに深まっていき、直貴は寺尾がアマチュアバンドで活動していることを知ります。

ある日、直貴は寺尾とそのバンドメンバー達とカラオケに行きます。そこで寺尾が直貴の歌声に惚れこみ、自身のバンドに勧誘します

断り続ける直貴ですが、寺尾もなかなか折れません。そこで強盗殺人で服役中の兄がいることを仕方なく打ち明けます。

しかし、寺尾とバンドメンバー達はその事実を受容し、直貴を受け入れたのでした。

直貴が加入後、バンド活動は順調に進み大手レーベルの目に留まります。

「メジャーデビューできるかもしれない」

そんな淡い期待を抱いていた直貴に残酷な事実が突き付けられることになります。

バンドメンバー全員の家族関係が調べ上げられたのです。

中条朝美との恋

直貴は大学の通信課程から通学過程に移っていました。つまり、一般的な大学生となったわけです。

大学生活の中で直貴には「中条朝美」という恋人ができます。朝美は裕福な家の娘でした。

ある時、直貴は朝美の実家に挨拶に行くことになりました。そこで直貴は中条家の人間から歓迎されていない事を感じ取ります。

「自分の様な底辺の人間は中条家にふさわしくない」と態度・言動で示されたのです。

ショックを受けた直貴ですが、どうにか朝美と結ばれる道を模索します。

しかし、ひょんなことから中条家の人間に剛志から届いた手紙を見られてしまいます。

ここでも「強盗殺人犯の弟」というレッテルが暗い影を落とすのです。

離れなかった者

考えてみたんだ。俺は今まで、兄貴のことを話したら、誰も彼も自分から離れていくと思ってた。でもそうじゃなかった。一人だけ、離れない者がいた。それが由美子なんだ。

東野圭吾『手紙』より引用

作中で直貴は白石由美子に対して上記の様に語りかけます。

直貴はリサイクル工場で働いていた時に由美子に出会いました。それからというもの、由美子は直貴から離れず、関わりを持ち続けます。

剛志のことを伝えた後でも、彼女は決して離れず変わらぬ態度で接してきたのです。逆に、少し馴れ馴れしくなってきたほどでした。

剛志の存在により、いつも何かを失ってきた直貴が唯一失わなかったもの。それが、由美子との繋がりでした。

差別はあって当たり前

直貴は大学卒業後に”新星電気”という会社に就職します。しかし、そこでも不遇な扱いを受けることになります。

そんな直貴に社長である平野は
「差別はあって当然」「正々堂々と生きれば差別が無くなるというのは甘えだ」と厳しい言葉をかけます。

のちに直貴は、平野が発した言葉の真意を理解することになります。そして苦渋の決断を下し、筆を執るのです。

剛志からの手紙

獄中の剛志から月に一度、直貴へ手紙が届きます。

「強盗殺人犯の弟」というレッテルを貼られ、今を生きることに必死な直貴は剛志からの手紙、また、剛志の存在自体を憎く思う様になります。

しだいに返事は書かず、目を通すことも無くなりました。

手紙を送る剛志の想い。兄弟の絆。
『手紙』が導いた2人の道とは…

感想

殺人犯の剛志と弟の直貴。2人の苦悩・葛藤が緻密に描かれており、極めて重い内容です。どうしてもフィクションに感じられません。

邪魔だと感じていた剛志からの手紙。その手紙がキッカケとなり、差別と闘うことの本質を理解し、家族を守るために下した直貴の決断。それはあまりに苦しく、切ないものでした。

読み終わった後はずいぶんと力が抜けてしまいました。こんなに感情が動いたのは久しぶりの様に感じます。

”感動した”という綺麗な感情はありません。本書の内容は重く、苦しいのです。しかし、誰もが心打たれる名作中の名作だと断言できます。

 

ABOUT ME
テイケチ
◇25歳/男 ◇医療職/田舎で一人暮らし ◇小説紹介してます